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意思決定モデル
特設

テキストを生成せず判断だけを返す意思決定モデル(System One)を追う特設です。Jev・Laya・Von・Kev・Jeff・Deciderなどの系譜、価格、較正、閾値設計、導入判断を一次情報で整理します。生成LLMとは課金単位も評価軸も別なので、当サイトでは独立した特設として扱います。特設・最終更新 2026.10.18

30秒でわかる結論

決定モデル(System One)は、文章を生成せず、あらかじめ定義した選択肢に対して確率だけを1回の順伝播で返すモデルです。速く、安く、型が壊れません。ただし「型安全」は「判断が正しい」こととは別で、確率の較正(calibration)と閾値設計が実務の成否を分けます。TypeSafeのJevが基準点で、2026年9月中旬以降に十数のオープン実装が登場しました。

1. 何が変わったのか

LLMに「このチケットはどの部署か」を聞くと、答えを得るために段落を生成させ、それを解析してif文に戻すことになります。遅く、出力トークン分だけ高く、パースが壊れ得ます。決定モデルは生成そのものを捨て、state(判断対象)+questions(型付きの問い)を受け取り、許可された選択肢の上での確率分布だけを返します。出力空間がスキーマそのものなので、存在しない選択肢は返せません。

問いは3種類です。choice(順序のない選択:部署振り分け、意図分類、ツール選択)/score(順序尺度:緊急度、感情強度、リスク)/noul(はい・いいえの確率:フィッシング、脱獄、返金要求)。選択肢はリクエスト時に渡すので、自前の分類器のように学習は不要です。

2. 基準点:Jev(TypeSafe AI)

項目内容
現行版jev-1.14.0(2026年10月14日、jev-preview)。SDKの既定であるjev-latestは、10月16日時点の公式ドキュメントではまだjev-1.13.0を指しています(1週間後に切替の予定)。詳細は下の「3. Jev 1.14.0」を参照
提供元TypeSafe AI(サンフランシスコ)。共同創業者の Diogo Almeida は Google Brain / OpenAI 出身で InstructGPT 論文と GPT-4 技術報告の著者の一人。2026年9月15日に早期アクセス、同時に DCVC 主導のシード4,000万ドルを公表
形態クローズド・マネージドAPI。POST /v1/systemone、Python / JavaScript SDK
価格入力 $0.042 / 100万トークン、出力は無料
速度1呼び出しあたり70〜500ミリ秒。問いの数と選択肢の数に対してほぼ一定(2択76ms・200択75.5ms)、state長に対して線形(約59ms+1kトークンあたり約5.5ms)
上限choiceは最大255選択肢。1リクエスト64kトークン(state+最長の問いで32k)
学習RLCD(Reinforcement Learning for Calibrated Decisions)。確率と実測頻度の一致を目的関数に据える考え方で、アルゴリズム名ではなく目標の名前だとTypeSafeは説明
開示アーキテクチャ・パラメータ数・学習データは非公開。外部からのブラックボックス推定では、事前学習済みの因果Transformerを土台に、serving と readout を作り替えたものと見られている

第三者評価として重要なのは、ボン大学・Lamarr Institute・Fraunhofer IAIS のグループが jev-1.13.0 を37データセット・346,009リクエスト・API費用10ドル未満でゼロショット評価した結果です。Qwen3.8-27B と Gemma-4-E4B を同一リクエストで比較し、Jev は37データセット中27で Qwen3.8-27B を上回り、IMDB・SST-2・HellaSwag・ARC で95〜99%、122言語の Belebele で86.7%でした。choiceの確率はよく較正されており、選択的予測が機能することも確認されています。ただしnoulの確率は順位付けは良いものの固定の0.5閾値とは相性が悪く、ハードコードした閾値は誤った読み方になります。

弱い領域も公表されています。多段の数学・計画(System 2 的な仕事)、数え上げ、日付比較、逐語的な読み取りです。TypeSafe自身が「jaggedness」ページで数学・数え上げ・日付比較を弱点として挙げており、報告された最弱カテゴリはトレーディングボットでした。

3. Jev 1.14.0(2026年10月14日)

TypeSafe AIは2026年10月14日、Jev 1.14.0をjev-previewとして公開しました。全体的に小さく着実な改善で、同社が最も大きな伸びと説明するのは多言語対応です。価格は据え置きで、入力$0.042/100万トークン、出力は無料です。

項目内容
画像入力(実験的)ヘッダーTypeSafe-Danger-Zone-Images: trueで有効化。画像はassetsに一度置き、state/instructions/criteriaから参照する合成可能な方式。TypeSafeは「1.13.0も最初からマルチモーダルだった」と説明しています。PNG/JPEGのみ、1ファイル16MiB以下、1辺256〜1568px、リクエスト32MiB以下。入力トークンとして通常価格で課金
新しい型 box1問につき1つのバウンディングボックスを0〜1の正規化された辺(上下左右)として返し、確信度も返します。1.14.0限定。対象が存在しない場合でも必ず箱を返す仕様のため、存在確認のNoul質問と組にする運用が推奨されています
長い文脈(実験的)既定は1リクエスト64k・1問32k。ヘッダーTypeSafe-Danger-Zone-Long-Context: trueで262kまで拡張。ただし信頼性が落ちるため短い文脈が推奨
移行計画jev-previewは今すぐ1.14.0。jev-latestは1週間後に切り替え。jev-1.13.0は当面利用可能で、正式非推奨の60日前に告知。1.14.0は30日前に告知
注意3機能はいずれも本番利用に対応していないとTypeSafe自身が明言しています("danger zone")。画像はテキストより性能が落ち、質問を最も単純に分解するほど良いとされています
ベンチマーク公開ベンチマークを好まない立場を明言しつつ("antibenchmaxxing")、今回は社内の知能指標を開示。オープンウェイトのみを比較対象としており、自社に有利なバイアスがあり得る点と数値が一貫しない点を自ら注記提供元公称

Boxの小規模検証では、絵画の切り抜き36枚(対象の一部が欠けた画像)を使い、辺ごとに分けた4つのNoul質問が36件中30件の欠けを検出しました。「全部入っているか」を1問だけ聞く方式は26件、輪郭を描いて問う方式は20件です。提供元公称

AIfrontierの見解 Boxは「判断するモデル」から「位置を知るモデル」への最初の一歩です。型が決まった出力という設計を保ったまま、製造の外観検査や図面の対象特定といった検査・ローカライズへ射程を広げようとしています。ただし「対象が無くても箱を返す」仕様は型安全とは別の落とし穴で、必ず存在確認の質問と組み合わせてください。関連:ローカルLLM/クラウドLLM 最新情報

4. 系譜マップ(2026年10月16日時点)

Jevの登場から1週間で、同じインターフェースを実装したオープン系が一気に現れました。性格は大きく3つに分かれます。双方向エンコーダ型(KVキャッシュ不要=CPUで最速)、因果デコーダ+LoRA型(長いstateを読める)、学習しない抽出型(既存モデルのlogitsを読む)です。

モデル提供元 / ライセンス構成速度・価格の目安注意点
JevTypeSafe AI / クローズド非公開70〜500ms、$0.042/M入力・出力無料較正の「順位付け」はオープン系が未達。閾値は要自前検証
LayaConvai Innovations(Nandakishor M)/ Apache 2.0ModernBERT-large 421M(英語)+ mmBERT 322M(100言語超)、決定ヘッドTesla T4で1問39.5ms/多言語32.8ms、10問バッチで7.2ms素の checkpoint はほぼ偶然(0.362/0.342、多数派baseline 0.461)。見出しの0.766は専用checkpointの微調整後。選択肢20超で精度低下、既定文脈512トークン
Vonオープン(2026年9月23日)/ 395M双方向エンコーダ、キャッシュ不要CPUで15ミリ秒未満文脈長と世界知識は因果デコーダ型に劣る
Kev 1.0Jared Palmer / Apache 2.0Qwen3.5 / 3.8 ベース(0.8B / 4B / 9B / 27B)。TypeSafe SDKとそのまま互換、温度較正つきKev-4BはH100で18.1ms、Apple M5で5問721ms。Kev-27Bは80GB級GPU。Kev-4Bの微調整はH100で約1ドルから作者のheld-out指標でJev 1.14をわずかに下回る。MMLU-Pro系の知識課題はJevが上。AIMultipleのブラウザ操作では Kev-27B 40/50 対 Jev 17/50
Jeff v1.3/Jeff-Codefirelex / コードMIT・重みApache 2.0(一部アダプタは非商用)Qwen3.5-0.8Bベース。v1.3は用途別アダプタ15種を前提とする設計で、GGUFにも対応(v1.2も旧名で継続提供)約22〜30ミリ秒Jeff-CodeはQwen3.8-27Bの前段に置くと、6ベンチ1,242タスクで所要時間32%減(47%高速)、合格率は62.4%対62.8%とほぼ同等提供元公称
SemIfTheoLeeCJ / MIT既存モデルのlogitsを直接読む(専用ヘッド不要)4bit Qwen3.5-4B で JSON生成の5.21倍高速、20.03 decisions/秒自作ベンチで0.813。研究・実験用途
NanoJevTianyuCodings / MITQwen3-0.6B+並列決定ヘッド—公開ベンチは ViZDoom のゲーム操作のみ。CUDA必須で研究用
jevlikevinnylarouge / MITバイト埋め込み小型デコーダ比で約100倍高速作者自身が「研究用スターター」と明記。本番用途は非推奨
Perplexity Decider v1.1 27BPerplexity / Apache 2.0(重み公開)27B、非因果注意、マルチモーダル。重み約49GiB$0.02(v1の半額)AA Decision Indexで1万タスク当たり$17と最安。自社のDecision Index 0.3ではJevをわずかに上回ると主張
Clef/Clef-flash/Clef-omniCloudflare / Apache 2.0Clef:Qwen3.8-27B凍結+LoRA。Clef-flash:Qwen3.5-9B。Clef-omni:Qwen3-Omni-30B-A3B(音声・動画対応)Clef $0.24(64k)、Clef-flash $0.038(10月9日に$0.09から値下げ、ホスト版の文脈は24k)、Clef-omni $0.15/テキスト約130msJev API互換。Clef-flashは値下げと引き換えにホスト版の文脈を64k→24kへ縮小(重みは256k対応)
d1/d1-ultra/d1-3BLiquid AI / ホスト版はクローズド、d1-3Bはオープンd1-ultraは大型のオープンウェイトモデルを土台に独自改造。テキスト・画像d1 $0.02、d1-ultra $0.042(10月15日)。d1-3BはRTX 4090で8msd1-ultraは「112評価でJev 1.14を上回る」「AA Decision Indexで他の決定モデルを8ポイント以上上回る」と主張提供元公称
Microsoft-Decision-1Microsoft / Foundryで提供Qwen3.5-9Bベースと報道AA Decision Indexで1万タスク当たり約$31(同指標のパレート最前線)AA指数54。「わからない」を選べる問題での非ハルシネーション率40%は決定モデル首位
OpenAI Decisions APIOpenAI / クローズド(ベータ)GPT-6 Lunaベースと報道$0.10(報道)10月6日のDevDayで発表。仕様の一次情報は限定的

名前の衝突に注意してください。Layaは「オープンソース版Jev」と呼ばれますが、公開されている見出しの数値の多くはベンチマークの学習分割で微調整した専用checkpointのもので、素の重みの実力ではありません。JevとLayaの比較表にあるJev側の数値も、Layaの作者自身が「TypeSafeのAPIにアクセスできない」と断った上で第三者の公表値から引いています。数値は必ず条件(checkpoint・ルーティング・文脈長・選択肢数)とセットで読む必要があります。

5. 第三者ベンチ:Artificial AnalysisとAIMultiple

10月に入り、提供元以外が同じ物差しで測った結果が初めてそろいました。Artificial Analysis Decision Index v1.0は、知識とハルシネーション(AA-Omniscience-Decision)、推論(HLE-MultiChoice)、ツール呼び出し(When2Call)、分類(WildGuardTest)の4評価を25%ずつ合成した指標です。 出典:Artificial Analysis

観点結果
総合Jev 1.13が58で首位。GLiDEとMicrosoft-Decision-1が54
費用(100万タスク当たり)Decider v1.1 27Bが$17で最安。Microsoft-Decision-1 $31、Jev 1.13 $42もパレート最前線。GLiDEは$119
速度(1タスク中央値)Celeris-1 Decisionが0.06秒で最速。Jev 1.13は0.13秒
較正すべての決定モデルが過信ぎみ。特に知識・推論課題で、確率ほど正解しない。ツール呼び出しと分類では比較的よく較正されている
「わからない」と言えるか非ハルシネーション率はMicrosoft-Decision-1が40%で首位、Jev 1.13が35%、Mercury Decideが32%。他は17%未満
汎用LLMとの比較Claude Haiku 5.5(Low)は61でJevを上回るが、1タスク1.4秒(約11倍)、費用は約4.4倍

AIMultipleは50の決定モデルを横断評価し、分類ではJev 1.13を首位としました。一方、ブラウザ操作のタスクではJevが「blocked」を多発し、Kev-27Bの40/50に対してJevは17/50でした。 出典:AIMultiple

AIfrontierの見解 d1-ultraやDecider v1.1が掲げる「Jev超え」の多くは、提供元自身の指標によるものです。第三者の指標ではJevがまだ首位で、ただし費用ではDecider、速度ではCeleris、「わからない」の言い方ではMicrosoftが上回ります。単一の総合点ではなく、自社で効く軸を選んで比べてください。

6. 較正と閾値設計――ここが実務の分かれ目

決定モデルの価値は速さではなく、if文に書ける確信度にあります。モデルが0.95と言った事象が実際に70%しか起きないなら、設定した閾値はすべて間違っています。この「確率と実測頻度の一致」を較正と呼び、集団としての性質なので、1つの答えについて正誤を言うものではありません。代表的な指標がECE(期待較正誤差)で、0が理想です。

Layaの公表値では ECE が Jev の0.246に対して0.081と良好ですが、これはルーティング後の測定値です。またLayaのモデルカード自身が「出荷時の確率は過信ぎみであり、重要な操作を制御する前にホールドアウトデータで較正せよ」と警告しています。

実務では確信度を3層に分けます。高確信は自動実行、中確信はより強いモデルに回すか人に確認、低確信は人へ。Layaの Act/Escalate ヘッドはコスト行列(正解+1、誤り−3、人へのエスカレーション−0.5)で学習しており、自動実行がエスカレーションに勝つのは正解率が62.5%を超える場合だけ、という設計になっています。温度スケーリングは分布の形を整えますが、順位付けそのものが誤っている場合は直せません。ここが、オープン系がまだJevに追いつけていない唯一の点だとされています。

7. 導入判断チェックリスト(10項目)

  • その判断は「有限個の答え」に落ちるか。自由記述が必要ならLLMの仕事
  • 権限・価格上限・残高など厳密な要件はコードで強制しているか(モデルに任せない)
  • 選択肢はいくつか。20超ならJev/Kev/因果デコーダ型、20以下ならLaya/Vonが候補
  • stateはどれだけ長いか。512トークンで足りるか、8k〜64k必要か
  • 自前のラベル付きデータで温度を較正したか(重み・精度・ランタイム・プロンプト版に紐づけて固定する)
  • 閾値は誤りのコストに応じて問いごとに設定したか
  • データを外に出せるか。不可ならLaya/Von/Kevのセルフホスト
  • レイテンシ予算はフレーム内か、リクエスト往復か
  • 選択肢の並び順で確率が動くことを確認したか(較正時は並べ替えて検証する)
  • 本番前に「小さなLLM+構造化出力」「決定的ルール」と同一タスクで比較したか(単純な手法が勝つことがある)

8. 出典

本ページは公開情報の整理です。Jevの内部仕様、および各オープン実装の数値の多くは提供元の自己申告であり、当社が再現検証したものではありません。数値は条件とセットで参照してください。